東京西部に広がる地、武蔵野。中でも駅前の繁華街と、うっそうとした緑あふれる井の頭公園が広がる吉祥寺という町に、その「武蔵野倶楽部」という店はある。
あえて「吉祥寺」とはいわず、「武蔵野」と呼びたがる赤シャツのマスターと、年齢も職業もばらばらな男たちの、ささやかな幸せを描いた物語。
味わい深く年を重ねた小山老人を筆頭に、人懐っこい自称画廊主の30代の女も交ざって、皆が毎日ゆったりとグラスを傾け、音楽を楽しむ。
時代は平成。昭和から地道に歩み続けている男たちは、その「ウェットな心持を封印して」仕事や人生に取り組まなければならない。そこに生じる溝は、心持ちコートの襟をたてて、行きつけの飲み屋に急いで、ゆっくりと埋めていくのだろうか。
「よう、あいかわらず昭和しているね」と小山老人が声をかけて、今日も「武蔵野倶楽部」の扉が開く。ほか5つの都市で紡がれた物語が収録されている。
(文芸春秋 1667円+税)=岡田美和・筆


















