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雪崩の森

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プロフィール

Dr雪崩の森

ニックネーム:
りう
自己紹介:
アルプス雪崩研究所所長, 雪氷と森林の研究教育に50年従事. 94年信州移住. 05年から白馬村在住.

著書に『雪崩の掟』(信濃毎日新聞社刊)など


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<<2010年 7月 >>

新着コメント

雪崩医学実験の今
豚2

1月上旬チロルの小村ベント(Vent)で、生きた豚を雪の中に埋める雪崩医学実験が行われ、世界の注目を浴びた。10日間、29頭の豚が使用される予定だったが、動物愛護運動や地元観光関係者の猛烈な反対で、3日目、10頭が死亡したところで実験は中止された。

雪崩豚実験騒動

 

オーストリアでは平均して年間2030人、アルプス全体では100人程度の雪崩死がある。人命を救うための動物実験は、オーストリア科学省動物実験委員会の認可を得て、実験倫理委員の監視の下に行われたのだが、思いもかけず頓挫のやむなきに至った。

 

この国際的実験チームの責任者H.ブルガー教授(Hermann Brugger)は、雪崩後の経過時間と死亡原因の変化の関係を明らかにした業績で知られ、イタリアとオーストリアの南北チロルを根城にして20年来国際的に活躍している。

 

私もだが多くの雪崩専門家や医師が、彼の研究成果を参考にして、人命を助けるための仕事を進めてきた。たとえば、名古屋大学医学部の麻酔科医師と日本勤労者山岳連盟とが組んで、県内で90年代後半に3年続けて有志登山家の埋雪実験(40分~90分)を行い、低体温症対策を少しばかり向上させた。

 

アルプスでの統計によれば、雪崩に全身埋まった人のうちの2割くらいが窒息しないで1時間以上生きている。これは顔の周りのエア・ポケットのせいだ。さらに時間が経過すると、酸素欠乏と低体温症とが重なって死に至る。その前後の脳・心肺など身体機能の詳しいデータを得たい、有効な救命策を得たいと、実験チームは麻酔をかけた豚に計器を埋め込み、124頭ずつ雪に埋める実験を遂行したのだ。

低体温症・雪崩死

 

本当に必要な実験なのだろうか?まさか、雪崩と無縁な日常をおくる豚類の救命率向上に資する実験ではあるまい。私は動物実験を日頃行っている医学者、生物学者の頭が麻痺していると思う。

 

マウスよりも豚の脳や心肺は人間のものに近い。90年代には米国の自動車業界が豚を乗せてカー・クラッシュ実験を行っていたが、動物愛護運動の高まりで中止している。しかし、米英の軍隊は抗議をものともせず、今日もなお、年間3~4桁の頭数の麻酔豚を撃ち、突き刺して「兵士の救急訓練」に供し、あるいは各種の防爆衣を被せて至近距離から爆破し、「兵士の救命率向上」に資する。「国際テロ対策」:彼らの「崇高な」目標の中に、敵の救命率向上は含まれないし、もちろん豚の命は眼中に無い。

軍の豚虐待1  軍の豚虐待2

 

一方、084月に米ユタ州では、計器を埋め込んだロボットやダミーを人工的な雪崩爆破で急斜面から落とし、脳や身体各部にかかる負荷を調べる実験も行われた。おそらく軍事研究のお下がりであろう、爆風に強いスチールマネキン「Iron Man」(身長2m、体重83㎏)は高度差137mを最高時速40㎞で落下し、11回転した。途中で岩に激突もした。頭部には、ジェット戦闘機パイロット並みの4G(重力加速度)~10Gの衝撃があった。

IronMan雪崩実験

 

最近のカナダ医学者の研究によれば、北米ではヨーロッパアルプスと異なり、ヘリスキーやスノーモービルを楽しむ人々の雪崩死が多く、ビーコン(雪崩用トランシーバー)の助力もあって現場で仲間によって割合に早く掘り出される。その結果、窒息や低体温症による死亡が減る一方で、頭部・胸部の外傷による死亡率が高まる。ブルガー教授の低体温症実験とは異なり、ユタ州のような外傷対策に貢献する実験がいま注目される。

西カナダ雪崩死  西カナダ雪崩医学

 

この頭部を衝撃から守り、かつ、雪崩の表面に体が浮くため、雪山のプロフェッショナルが携行するのが雪崩エアバッグだ。雪崩に流されはじめたら胸の引き金を引くと、背負っていたエアバッグにガスが瞬時に充填される。天使の翼のように膨らむもの。大きな枕で頭を包みこむもの。作動の原理は乗用車のエアバッグと同様だ。ノルウェー・スイス・ドイツ・アメリカなどで開発され、約5万円~10万円相当の製品が普及しているが、残念ながら我が国では輸入に難があり、少数の好事家が所有しているに過ぎない。

Float 30 Avalanche Airbag 

Snowpulse Lifebag  写真下

KlimABS Freeride Avalanche Pack 

ABS-Avalanche Airbag

remote trigger airbag   特許情報

 

25年間のエアバッグ着用者雪崩時生存率は98%という。エアバッグ展開時の浮揚効果は信頼できるものの、誤作動があったり、後発の二次雪崩に埋まったりで死亡につながったケースもある。雪崩緊急時、仲間のエアバッグに無線を飛ばして膨らませるリモートトリガー製品も近々市場に出る。

 

22日、南チロル(伊)の山スキーフリーク・C.オレル氏(46)の場合、大雪で雪崩予報が警告を発しているにもかかわらず傾斜40度の急斜面に突入し、幅60m、長さ150mの雪崩を引き起こした。エアバッグが機能して、雪崩が止まったときに彼の身体は表面に露出した。しかし下半身は重傷を負い手術を受けた。命がけで出動する救助者のことを考えたことがあるのか?彼が世間の非難を浴びたのはいうまでもない。

22日チロル雪崩事故    イタリア雪崩救助

 

このようにエアバッグといえども万能ではない。無いよりマシではあっても雪崩に勝てるわけがないのだ。脳を外力から守るよりも、状況を正しく判断できるように脳の中身を変える実験が・・・という時代が迫っているのかも知れない。


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格闘樹
田の原林大実習

1ヶ月前、スノーシューをはいて木曽御岳山の6合目を若者たちと歩いた。木曽町にある県立林業大学校の20人、「森林気象学実習」の一行だ。

標高2200mの田の原天然自然公園には曲がりくねった幹を誇示するかのような背の低いオオシラビソ(マツ科モミ属)の針葉樹林が広がり、森林限界2500mまでを覆う。

オオシラビソ、別名アオモリトドマツは、なぜ本州の亜高山林を席巻し得たのか。

森林生態学者の四手井(しでい)綱英先生は、東北の出羽山地では豪雪の圧力のためにオオシラビソ林が育たず、ブナ林が森林限界まで成長している、という新説を掲げられた(1952年~)。オオシラビソは豪雪に弱いのか、いや緩斜面や湿地ならば結構生えているではないか:以降、沢山の学者が森林限界とオオシラビソの研究を発展させた。  オオシラビソ分布要因

 

写真上 御岳山中腹のスノーシュー実習

写真下 凍裂したオオシラビソの年輪断面(地上1.2m)

      内部の割れ・腐れ・変色が多い


私はオオシラビソの凍裂(とうれつ)しやすさに注目している。樹木の水分が猛烈な寒さに凍って膨張し、太い幹が4mも縦割れする。その後傷口は外皮の成長によって 縫い閉ざされるものの、内部は割れたまま。樹皮に1本の傷口が見えたら、内部に3、4本の裂傷と黒く変色した材を抱えており、まず林業の対象になりようがない。製材機械にかけたらバラバラになったという話だ。

トドマツ凍裂  北海道凍裂分布


95年に信州大学演習林(中央アルプス)で凍裂の調査を始めたときは、深刻な林業被害を思い浮かべた。しかし調査が進むと、シラビソ・オオシラビソの亜高山林(直径20cm以上)の5割以上に凍裂が見られるが、そこに彼らの若木が元気よく育っている実態も分かってきた。

山岳林凍裂

長期間の積雪は、ガードレールをも破壊する沈降力でオオシラビソの幹や大枝を折り曲げる。これが強風に強い、横枝ばかり広がった背丈の低い姿へ変えた。が、幹の傷口からじわじわと材が腐る。

標高2500mでは、年平均気温が0℃に近い。高所では寒さゆえに倒木の分解が遅くやせ土だ。次世代の若いオオシラビソのため、親が早く土に還って肥やしになるしかない。それ故、少しでも腐れの入りやすい湿地を選んで生え、オマケに壮齢期から雪折れや凍裂の傷を利用して菌や虫を培養し、立っているうちから歳月をかけて自己分解を始める。

 

どうやら、この満身創痍(そうい)を逆手にとった不器用な生き方が、彼らを集団として酷寒、風雪を生き抜く強いDNAに仕立て上げた。

 

通直な幹にのみ価値を見出す林業とは別に、一見かっこ悪くて役立たずの亜高山帯の森林を見直してみよう。じつは見事に環境に適応した、力強い格闘樹(技)集団ではないか。こんな壮絶な生き方もありか・・・。

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| 凍裂 | 山岳林 | 林業大学校 | オオシラビソ | comment(0)
雪崩救助犬と耐えて待つ
rescue dog 1

バンクーバー・オリンピックが開幕した。私の思いは、裏方として活躍する約25組の雪崩救助犬チームへ飛ぶ。救助犬1、ハンドラー1、現地助手1から成るチームの主な任務は、バックカントリーへ入る五輪セキュリティースタッフを雪崩から助けること。B.C.州、アルバータ州だけでなく、遠くカリフォルニア・スコーバレーからも集結し、3山岳会場で約1週間の任に当たっている。

 

もちろん国際テロ対策として、王室カナダ騎馬警察の爆薬探査犬も多数動員されている。雪山はラブラドール、ゴールデン、シェパードなどの雪崩救助犬にしか手に負えない。パトロールのユニフォームの切れ端を一晩、70cm以上の深さに埋めても発見する能力。1ヘクタール(100m四方)の捜索に人間のゾンデ棒部隊で4時間かかるところを、救助犬では30分で完了だ。生死の鍵は犬の鼻にかかっている。

avalanche dogs

dog Murphy


若き日、71年にスイスへ留学したが、そこにはすでに200頭以上の雪崩救助犬が活躍していた。人間が束になっても犬一頭に敵わないのだ。彼の地の雪崩講習会で、私はゾンデ棒を持って部隊に加わり、犬の救助活動の邪魔をしない仕方を学んだ。それは国民皆兵スイスの男達の常識であった。

73年に帰国後、生存救出のための雪崩講習会をスタートした。が、心の底では、救助犬なしで本当に雪崩救助なぞ出来るものではない、と思っていた。だが90年頃、希望の灯が見えた。長野県中信地方の救助犬グループと接触できたのだ。

 

彼らは、犬とハンドラーだけでは訓練に限界があることを痛感していた。以後、救助犬と協働できる救助隊の養成、犬を生かした救助システムの構築を目標にして、かれこれ20年ばかり長野・新潟両県のスキー場で訓練を続けている。

救世主

雪崩埋没体験 

 

12日午前、HAKUBA 47スキー場。NPO法人ACTの12人は、2頭のシェパード:安曇野市のスズ(雌、6歳、児玉博ハンドラー)と妙高市のジル(雄、10歳、相楽潤ハンドラー)を迎えて救助訓練を行った。

2日続きの雨のせいで積雪は硬い氷雪と化し、雪穴に埋めた人間の体臭がなかなか上へ抜けてくれない。雪穴の中の人間も、救助犬とハンドラーにとっても我慢我慢の時間が過ぎ、30分後スズとジルはそれぞれの流儀で仕事を完遂した。

NPO法人ACT  

 

残念ながら現在、国際山岳リゾートHAKUBAには「白馬ローカル・ルール」(滑走禁止エリア、捜索実費負担など)はあるものの雪崩救助犬がいない。バックカントリーの魅力をうたうばかりで雪山の安全を保障する備えが不十分では、山岳リゾートの名前が泣く。白馬村で山岳ガイド冨田勝司さんとセントバーナード「ララ」が長野五輪(98年)の10年も前に点した灯を消してはいけない。

白馬ローカルルール 

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志賀高原に雪崩ふたたび
駐車場雪崩

新潟市で26年ぶりの大雪と地吹雪で100台以上の車が立ち往生。次いで「志賀高原前山スキー場(営業休止中)の雪崩」というTVニュースを7日朝に見た。

6日午後740分、猛烈な地吹雪の最中、西側斜面に発した雪崩は国道を横切り、ホテル駐車場の観光バス2台、乗用車15台を埋め、押し流した。さらにホテル1階ロビーに流れ込み、宿泊客2名が軽いケガをした。

信毎2月7日記事

 

写真上 雪崩に埋まったホテル前のバスと乗用車(7日、池田慎二氏提供)

 

写真下 1996年1月の前山事故雪崩

 

 

雪崩の原因・全容については新潟大学等の調査が入っているので後日明らかにされるだろう。俗に「風が雪崩を生む」というが、風下に大量に吹きだまった雪のせいだろうか。いや、地吹雪によって粉砕された雪結晶微細片(氷塵)はとても結合しやすくて板状になりやすく、雪崩れるときは大面積が割れる。これが、6日の雪崩を生んだ主因と私はにらむ。

また、不景気でスキー場のリフト営業・斜面管理がストップしたため,雪の滑りやすい笹やススキが伸び放題。スキーヤーが斜面に入って凹凸をつくることもない。これらも「足の長い」雪崩の発生を促進したのではないか。

 

じつは14年前の96年1月27日、この前山スキー場の立入禁止区域で新雪スキーを楽しんでいた5人パーティが雪崩を引き起こし、うち1人が窒息死という事故があった。その雪崩は国道を横切る規模ではなかった。

リーダー・サブリーダーと目されるスキー仲間の誤った判断があり、スキー場の管理にも手落ちがあったのでは、と遺族は損害賠償責任を問う民事訴訟を起こした。亡くなったのは教育公務員のトップ・東大教授で、しかも雪山の危険を熟知したベテランであり、むしろ故人のルール破りに対し自己責任を問う厳しい意見が強く、遺族側は敗訴した。(長野地裁平成13年2月1日判決)

判決

 

当時、事故直後の前山に行き、急斜面を登って雪崩の割れ目を調べた。危険斜面の真下に国道とホテルがあるのに驚き、危ないところだなあと感じた。『日本雪氷学会雪崩分類(19989月)』には私の撮った前山雪崩の写真(下)が、見事な「面発生表層雪崩」の例として採用されたことも忘れ難い。その後、2度ばかり登山家を対象にした雪崩講習会を前山で開いたこともある。だから、雪崩専門家にとっては、今回の雪崩は「全く想像できない現象」ではなかった筈である。ともかく被害が軽微で、胸をなでおろしている。

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不尽の白雪
mt.fuji 19 June

はるかに眺める冠雪の富士は神々しい。実は07年も08年も、6月の下旬になって山小屋関係者たちが登山道の除雪にあたり、何とか71日の山開きに間に合った。

今年の5月、富士山周辺は平年の約2倍の降水量が記録され、これが山頂では降雪だった。(気象庁発表)

さらに関東全域に大雨が降った6月16日、日本海からの 寒気の影響で山頂付近の最低気温は氷点下5・9度まで下がった。この時に降った雪は七合目付近(2700m)まで積もり、八合目付近(3000m)では1メートル以上あるといい、「昨年同期を上回った」(山小屋経営者)。

写真上:6月19日東北東面  下:森林限界のカラマツ林

 

そこで富士山吉田口旅館組合は「山開き直後は冬山の装備がな いと大事故につながる」と判断し、今年から7月1~4日の4日間は、団体のツアー客を受け入れないことを決めた。ツアー客の中には「夏山すら未経験の人がいる」(同組合)として、ある程度の除雪が終わる7月5日以降に受け入れをずらせた。4大ルートのうち、表富士や御殿場口から登る場合にはこうした制限はないかも知れないが、静岡県もなんらかの雪氷対策を講じるだろう。

富士開山 8合目以上は残雪 南ア・富士の残雪多目 富士の雪かき

 

富士山は三千世界に二つと無い高さと容姿からもともと「不二山」と書き、崇神天皇6年(紀元前92年、一説には4世紀初)に「福地山」と改称され、さらに西暦800802年の大噴火災害の後、武士好みの「富士山」で表記が落ち着いた。

山頂に雪が絶えないところから「不尽山」という字を当てることもある。傾斜40度をものともしない熟達のスキーヤーにとって、今夏の山頂付近の雪渓はこたえられない。 富士山スキー

 

私は富士の中腹~山麓には雪崩と森林調査で二十数年通っている。最近は表富士新五合目(2400m)までの静岡県道を、4月下旬のいつに冬季閉鎖を解いて開通させるべきかという道路管理者からの相談があった。日本最高の位置エネルギーを持った不尽の白雪には、接近すら許されない日々もある。3月下旬から4月になってもまだ五合目は大雪崩の通り道で、時々森林や施設が破壊されるのだ。

 

ところで、いま富士登山はブームだ。何しろ7月・8月に30万人を越える老若男女が押しかける。人々の安全のために地元の裏方さんは奔走している。その結果、往路と復路が分離された階段道の多くが、モルタルと手すりで固められた。しかもハイシーズンは慢性的な渋滞で、雪や石ではなくて人がこぼれ落ちやしまいか。これじゃ風情を味わいたい私は、遠慮させていただくしかない。

 

とまれ、火と雪の山、富士の恵みは途方もなく豊かであり、特に風雪に耐えて生き抜いたカラマツ林は圧巻だ。「フジの病」にかかった訳ではないが、結局、四季折々しぶとくわが不尽を訪れている。

唐松の声聴こえるや

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